フグは日本で広く知られる高級食材の一つ。中でもトラフグは「フグの王様」と称されるほど旨みと甘みが強い魚です。
一方でご存じの通りフグには毒があり、行政から許可を得ている飲食店でしか料理として提供されることはありません。
今回はそんなトラフグについて魚を扱って40年、この道一筋の片山水産代表が徹底解説します。
有名な産地や美味しい食べ方といった食通耳よりの情報から、フグの毒やフグ料理の別名で知られる「てっさ」「てっちり」の語源などの豆知識についても解説。
これからトラフグを楽しむにあたっての様々な知識が増やせますので、ぜひご覧ください。
Contents
トラフグとは?基礎知識や有名産地
まずはトラフグの基本情報について解説します。
トラフグは「フグの王様」
トラフグは「フグ目フグ科」に属する魚類。全長70cmほどに成長します。
フグ目フグ科には実は非常に多数の魚種が存在するのです。例えば食用のフグでいうと「マフグ」「サバフグ」(無毒です)「ゴマフグ」「シマフグ」など。食べられないフグでは「サザナミフグ」「ドクサバフグ」「モヨウフグ」など、挙げていてはキリがありません。
トラフグはそんな数多くのフグの中で最も旨みが強く、上品な味わいがあるとされており、「フグの王様」と言われています。
天然トラフグの産地は東海地方!下関は?
フグというと有名なのは山口県の下関ですが、下関はフグの産地というよりもどちらかというとフグが輸送され販売される「集積地」のような意味合いが強いです。
実は天然のトラフグの産地として有名なのは愛知、静岡、三重といった東海地方。トラフグ自体は日本全国の海域に生息しており、全国の有名漁港で数多く水揚げされています。また、長崎などの各地で陸上・海上での養殖もされています。
トラフグのおいしい食べ方
トラフグはフグの中でも味が良いだけでなく「身」「皮」「精巣(白子)」とフグの中では可食部位が多いことも特徴です。
代表的なトラフグのおいしい食べ方を解説します。
※必ずフグ調理の免許を持った資格者が調理したものを食べるようにしてください。
フグ刺し(てっさ)
フグの代表的な食べ方と言えば刺身。淡泊ながらも香りがよく、旨みの非常に強いフグを生でそのまま食べるのは最高の贅沢です。
フグ刺しの身は一般的に皿が透けて見えるほどに薄く切られます。理由はフグには脂質がほとんどなく筋肉質であるため厚く切るとゴムのような歯ごたえになってしまうからです。
フグ鍋(てっちり)
旨みの強いフグを煮ることで上質のダシが出ます。このダシを活用してフグの身や野菜うどんを煮込んだ鍋「てっちり」もフグの美味しい食べ方の一つです。
フグのから揚げ
フグのぶつ切りの身をタレに漬けて片栗粉をまぶして揚げるから揚げ。旨みの強い筋肉質の白身が揚げるとまるで肉のような食感になり、とても美味しいから揚げに仕上がります。
皮の湯引き
トラフグの皮には毒がないため、食べることができます。さっとお湯にくぐらせて軽く火を通した湯引きはコリコリとした感触を楽しむことができます。
白子焼き
トラフグの内臓は基本的に食べられませんが、精巣(白子)だけは食べることができます。
様々な魚の白子が食用として扱われていますが、中でもトラフグの白子は別格で「海の宝石」とまで言われています。
揚げ物や鍋物などさまざまな食べ方がありますが、表面を香ばしく焼き、中のトロっとした食感を楽しむ白子焼きがおすすめです。
ヒレ酒
可食部としてはマイナーですが、トラフグのヒレも毒はありません。ヒレを乾燥させて軽く炙って熱燗に漬けると、香ばしさと旨みが広がり他にない味わいが生まれます。
【豆知識】フグの毒や「てっさ」「てっちり」の語源
トラフグを食べる上でネックとなる「毒」ですが、実はフグ刺し(てっさ)、フグ鍋(てっちり)の語源にもなっています。
毒に関する豆知識を見ていきましょう。
フグが持つ猛毒「テトロドトキシン」
フグが持つ毒はテトロドトキシンと呼ばれます。テトロドトキシンは青酸カリの500倍もの強さがあると言われ、熱でも分解されないため加熱調理などの方法で無毒化することはできません。フグの毒を摂取するとしびれやめまいを感じ、時には死に至ることがあるのです。
「フグ目フグ科」に属するフグの種類は非常に多いのですが、身体のどの部分にどのくらいの毒を持っているのかも魚種により異なります。
例えば、トラフグが毒をもっているのは血や内臓(※精巣を除く)。そのため身や皮、精巣は食べることが可能です。しかし、フグの中には筋肉や皮にも毒をもっていて、全く食べることができないようなフグも多くいます。
そういった全く食べられないフグの中にも、初心者の方にはトラフグと見分けがつきにくいような種類のものもいます。
そのため、釣ったフグを自分で調理して食べるというのは絶対にやめましょう。
毒のないフグの養殖が実現
フグの毒は海中でテトロドトキシンを含む餌を捕食することで形成されます。そのため、養殖で餌を徹底管理することにより、天然ものでは毒をもつ品種であっても安全に無毒で食べることができます。
無毒なフグであれば、内臓を食べることもできますが、現在は流通の過程の中で天然ものと混ざってしまった際のリスクを考慮し、法的には内臓の提供は許可されていません。
フグの調理免許は都道府県により異なる
フグの提供に免許がいることは多くの方がご存じかと思います。しかし、この免許の内容は全国一律ではなく、都道府県が定める条例に沿って、既定の試験や講習を終えた人に資格が与えられるのです。
そのため、都道府県を跨いで再びフグの提供を行おうと思った場合、移転先の都道府県で資格を再取得する必要があります(連携している都道府県同士であれば、簡易な手続きで完了します)。
なお、現在フグの消費量日本一のエリアは大阪府です(全漁獲量のおよそ6割)。この背景にはフグ食が昭和初期から親しまれていたこともありますが、加えて大阪府のフグの調理免許の資格が他県に比べて簡単に取れることも挙げられます。
フグ食は豊臣秀吉が禁止し、伊藤博文が解禁
フグに毒があることは昔から知られていました。安土桃山時代、朝鮮出兵を行う中で、兵士たちが何も知らずにフグを調理し、中毒死が相次いだことから、豊臣秀吉によって全面的にフグ食の禁止令が制定されます。
その後、伊藤博文が山口県でフグを食べて感動し、山口県限定でフグ食を解禁。その後徐々に全国各地で免許制のもと、フグ食が広まっていきました。
フグの隠語は「てっぽう」?てっさ・てっちりの由来
江戸時代、フグ食は禁止されていましたが、庶民の間でもフグが非常に美味であることはよく知られていました。そして、闇ルートで流通し、こっそり食べられていたのです。
裏で扱われていたため、時にはフグの毒にあたって中毒死してしまうような例もありました。このような「当たると死ぬ」という性質から、フグは「てっぽう(鉄砲)」という隠語で呼ばれていました。
てっぽうの刺身で「てっさ」、てっぽうのちり鍋(魚の鍋)で「てっちり」と名付けられた料理名は、現在でも引き継がれています。
元々は「闇ルート」で流通していたものが、現代広く親しまれる料理名として残っているというのも面白いですね。
まとめ
トラフグの基礎知識や美味しい食べ方、フグの豆知識について解説しました。
トラフグは特有の香り、旨みを楽しむことができる高級食材。ただし、身体の一部に猛毒が含まれているため、調理免許を持った飲食店でしか食べることができません。
トラフグは取扱免許を持っている飲食店でお楽しみください。その際は今回紹介した豆知識をお連れ様に披露するなど、ぜひフグを味わいながら会話でも楽しんでいただけると嬉しいです。
片山水産では人気の魚、珍しい魚の情報も「お魚通信」で発信しています。ぜひ他にもご興味ある魚の記事がありましたらご覧ください。